この演出は2022年5月に初登場した。その時は指揮者が鈴木優人でオーケストラは同じ東京フィルだが古楽スタイルでオルフェはカウンターテナーのローレンス・ザッゾが歌ったが、今回は園田隆一郎指揮の現代的なオーケストラスタイルで、オルフェオはアルトのサラ・ミンガルドが歌った。
私は前回も聞いたが、同じ曲だがかなり印象が違う。前回は新国立劇場のバロック・オペラ第1弾と言う触れ込みだったのでそのスタイルの演奏だったようだが、今回はちょっとバロック・オペラのテイストではあるがモーツァルトの初期のオペラみたいな感じだと言えばいいのか。

舞踏オペラとしての側面も持つオペラだが、前回に続いて佐東利穂子がアーティスティックコラボレーター兼ダンサーで登場。
佐東の他に3人のダンサーが踊ったが、そのうちの一人のアレクサンドル・リアブコは前回も踊っていた。このリアブコ目当ての若いバレエファンがかなりいたようだ。4人の素晴らしい踊りが全体の情感を盛り上げそして深めていた。
オルフェオ役はなんとサラ・ミンガルド!バロックからマーラーまでをカバーするアルト界のレジェンドである。CDでは彼女の歌をかなり聞いたが、新国立劇場の舞台で彼女のオペラ出演が見れるとはなんという幸せか。
生年月日を調べたら、なんと1961年3月2日生まれの64歳!冥界まで最愛の女性を追いかけて行くたぎるような熱情はあまり感じないが、深い味わいに満ちた歌唱が聞かれた。

エウリディーチェ役はソプラノのベネデッタ・トーレでこちらはライジングスターらしい若々しく迫力満点の歌唱で喝采を浴びていた。オルフェオを冥界に導くなど助け舟を出す愛の神アモーレ役はメゾソプラノの杉山由紀。及第点以上の歌唱だった。5月の東京・春・音楽祭の「パルジファル」でクリングゾルの魔法の乙女たちのうち第3の娘を歌っていたのを聞いていた。
合唱はいつも通りの安定感、オーケストラ(東京フィル)も初日ながら聞きごたえが十分だった。
よく指摘されるが、このギリシャ神話の「オルフェオ伝説」は、古事記の中の「イザナキとイザナミ」の話に酷似している。イザナキとイザナミは共同作業(艶笑噺みたいで笑える)で「国生み」をするが、イザナミが死んでしまって、イザナキは諦めきれずにこれを追って黄泉国に降りて行く。しかしイザナキは禁を破ってイザナミを見てしまう。
ギリシャ神話と古事記がどこでつながっているのかその不思議を思ってしまう。いずれにせよやはりよく出来た話ではあるし、古代人の心根の在り方の「美しさ」そして「誠」ということになるのだろうか。
舞台は簡素ではあるが、勅使河原三郎の才気を感じさせる美しいオペラだ。25分の休憩を含めトータル2時間のオペラだが、
「オペラは長くて....」と敬遠気味の音楽ファンに是非薦めたい。