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「花時」(TAM MUSIC Factory)
壁紙「夏椿」(十五夜)












 

【2006.08.31】
     

   17歳の夏だった・・・

   僕は、スケート選手だった・・・
   いわき市平の社会人スケートクラブに所属する学生選手だった。

   All−Japanクラスの学生選手が3人いた。
   磐城高校のトシ、磐城女子高校のメイ、福島高専のHidyこと朱雀・・・
   そして、All-関東クラスの社会人選手がゴロゴロ居た。

   トシとメイは兄妹でチームオーナー兼監督の子供達だった。
   僕等3人に会津のチビが加わって全国を転戦していた。
   4人共、World-Cup迄、後少しのPositionに居た。

   僕は学校が引けると、豊間海岸にある監督の家へと通っていた・・・
   僕は真面目にShort-TrackのWorld-Cupperを目指していた・・・
   あと10人程を抜き去れば、World-Cupだ!
   この、あと何人が、死ぬ程難しいのだ・・・
   実際、Posionが変わることはなかった。
   (机上の記録計算なので、実際何人居たかは定かではない・・・)

   監督は兄のトシと妹のメイをOlinpicに出場させるのが夢だったらしい・・・
   実際、地方テレビ局の特番になった事がある。
   「めざせ、オリンピック!」と題されたその番組は、
   僕等が豊間海岸の砂浜を走ったり、バーベルを上げたりするCutに
   地上でのシミュレーショントレーニングの様子を映しては・・・
   私財を投げ打って、社会人チームを率いる酔狂な男のインタビューで
   締めくくられた。

   休日を除いてはほとんどを、監督の家にバスで通い
   トレーニングをしては、食事を頂いて、寮へ帰るといった生活だった。
   だから、僕等三人はまるで、兄弟のように暮らした。

       

   なんだか、幸せだった・・・
   だってば、メイかわゆいんだもの・・・

   メイは中村あゆみに似ていて・・・
   ううん、中村あゆみがメイに似ているんだよ・・・
   (☆そうかぁ、だから、オレ中村あゆみが好きなんだぁ!?)

   それにしても、僕の人生の中で、他人様のお宅で食事を頂くことの
   なんと多いことか・・・そゆ運命なのかね?

   子供の頃は、良くオヤジに怒られて家を放り出されては、
   ご近所で御飯頂いていたもの・・・
   だから、僕には実家が幾つもあるようなものなんだ!

   ほら、昔は長屋の子供は、長屋全体で育てたものじゃぁない?
   よく、お隣のオバチャンに引っ叩かれたもの・・・
   ああ、良き日本文化よ何処に???


   このことは、一生告白するつもりはなかったのだが、
   トシは僕と棲み分けをしてくれていた。
   レース前に彼は必ずこう聞くのだった・・・
   「ヒデ、何滑るんだぁ?」
   ”オレがスプリント滑れねぇの知ってっぺよぉ〜!”
   ”決まってっぺよ! いっちゃん長いの一本!”
   「そか、判った!」
   彼はオールラウンダーなのだが、僕のエントリィ種目は外してくれていた。

   全日本ランカーの彼は、勝つ為だけに滑る・・・時計にこだわりは無い。
   だから、どんな試合でも、2着の滑り手とギリギリの差で勝つ・・・
   知らない人が見ると、やっと勝ったかの様に見える。

   トシは、いつも僕の為に一種目だけ最長の距離を残してくれていた。
   だから僕は、長距離のスペシャリストとして県下に君臨出来た。
   僕はただひたすらにと、メトロノームの様に正確に時を刻み・・・
   一定のリズムでストロークを繰り出して、記録を積み上げる。
            
   一度だけ、長距離をトシと戦った事がある。
   レース中盤のことだった、珍しく、トシがウィンクする。
   ・・・(ヒデ、行くぞ!って)
   二人で飛び出して独走体制を作った。
   まるで競輪の様に先頭引きを交代しながら僕等は、
   セカンドグループを引き離して行く。
   なんか変だ・・・足がもつれていつもより乳酸が溜まる・・・
   トシは先頭を引く度にLapを変えていたのだ。
   早目にスパートしたトシは僕を置き去りにすると・・・
   まるで、ついてこれない事を確認するかのように、
   息が上がったふりをして、僕を一着でゴールに入れた!

   二着の賞に「ヒデ、長距離の賞状貰ってしまった。」ですと・・・
   コノヤロー、オレを揺さぶってどうすんじゃぁ〜
   ちっとも、嬉しかぁないぞぉ〜
   御願いだから、アンタはずっとスプリントやってて下さい!
   トシがチームメイトで良かったぁ〜
   ・・・僕は、福島県の長距離のチャンプだった・・・なんだか、哀しい!


   一方、メイは県下では敵なしの女王だった。
   戦う相手がいないので、ほのぼのと滑り込んでいた。
   なんだか、メイを見てると・・・
   これが恋心なのだと、気付くのには、さほど時間はかからなかった。

   練習も試合もちっとも苦しくないんだ・・・
   だって、メイがいるもの・・・

   え〜、アスリートってば、身近でくっ付くことが多いんです。
   ほら、割りと閉鎖された空間の中にいつもいるから・・・

   さて、常に両親の監視下の恋・・・どうすべぇ!?
   モチロン、片思いで終わったさ・・・オレ、ガラスのハートだもの・・・
   世間知らずの何も判らない子供だったしさ・・・


   やがて、夜の街にデビューした僕は・・・
   アンダーグラウンドなジャズ喫茶や、
   派手な人形達の棲息するBARに通うようになって・・・
   練習にはあまり参加しなくなっていったんだ。

   あげくにはさ、BIKEで転んで大事な足に怪我を負うこと数回・・・
   いつしか記録は出なくなっていったんだ・・・

   僕は珠玉の時間を・・・気付かずにいた。
   僕自身が潰してしまったらしい・・・その大切な時間を・・・
   あの海辺に通った夏の日々を・・・


     ベイエリア 夕暮れにたたずんで
     暖かな夏の雨 受け止めている
     去年まで 友達でいた二人・・・
     今はもう かけがえのない恋人

     Teenageに 最後の夏が行く
     愛し合った月日はまだ短いけれど 信じられる人
     諦めない心 偽らない瞳
     全ては彼女が 教えてくれたから・・・

     胸につのる想い ありったけの涙
     この手にのせて贈るよ
                
     時々はわけもなく 黙り込み・・・
     時々はわけもなく 笑いあう・・・
     なにげない おだやかな時間が好き
     一秒も手のひらから こぼしたくない!

     Teenageに最後の夏が行く
     口付けさえ上手に まだ出来ないけど つれて行きたいよ
     
     諦めない心 偽らない瞳
     まっすぐ彼女を 見つめていたいだけ・・・

     この小さな愛と 生まれたての涙・・・
     その手でそっと 暖めて

     潮風ににじむ 彼女の口元に
     からむように聞こえてくる 遠いサキソフォン・・・

     諦めない心 偽らない瞳
     全ては彼女が 教えてくれたから・・・

     Do It Again!
     いっつも Do It Again!

     そうさ 約束できる 今なら・・・

      − Bay-Areaの少年 −
                From Ayumi Nakamura

       

   メイが言う! 「ヒデ、Bike乗せて!?」
   監督が言う!{駄目だよ、メイちゃん、危ないから!}

   メイをデートに誘う!
   監督が引率してくる。 {ヒデユキ、メイちゃんつれてきたぞ!}
   デートに親がついてきて、どうすんじゃぁ!?

   やがてトシは、北海道大学に進学すると
   あっさりとシューズを脱いで・・・
   バイオテクノロジィーなんぞにいそしむこととなった。

   メイと言えば・・・
   平商業高校のウラちゃんと恋仲になっちまったらしい・・・

   コノヤロー・・・オレの真似してスケート始めた奴と・・・
   オレの真似して、同じBike買った奴と・・・
   なんでぇ〜???????

   僕はと言えば・・・
   不良三昧の挙句・・・放校処分となり
   いわき市を後にすることとなった・・・
   やけになってカットンデいたら、車に足首を潰されて・・・
   意地と未練で続けていた選手を引退することとなったのだった・・・

   全日本にはたった二回しか出場出来なかったし・・・
   たった14位が最高位であった・・・

   最も望み薄だった、会津のチビだけが、
   World-Cupperになった。


   僕は忘れない・・・
   いわき市平を去る日に
   どこから、聞きつけたのか・・・メイは僕の下宿にやって来て・・・
       
   「オニイチャンは北海道に行っちゃったし・・・
    ヒデもいなくなっちゃうんだね・・・」
   ”ああ”
   「元気でね!」
   ”うん・・・”

   三十分程の沈黙の中・・・僕達は見詰め合っていた・・・

   福島と平、違うチームで戦った、子供の頃・・・
   僕が家庭教師になった、メイの高校受験・・・
   皆で通ったコーチの居る茨城は日立のリンク・・・
   練習の後のラーメン・・・
   豊間海岸の砂の重さ・・・

   それらは、走馬灯の様に僕の脳裏をよぎっていた!
   きっと、メイもそうだったに違いない・・・・

   ”じゃぁ、オレ行くわ!”
   「うん・・・」

   7歳から10年程の歴史の中で、始めて恋人みたいに・・・
   それが、’ああ’と’うん’だけなんて・・・
   
   なんだか、哀しい・・・
   それ以来、メイに会うことは無かった・・・


   あの平で過ごした数年間は・・・
   僕の人生で最も、珠玉の時間だったに違いない!!!

   初心に戻ろうと想う時・・・
   僕はいつも、豊間海岸とメイのことを思い出す。

   そう、諦めない心と・・・
   偽らない瞳を・・・

    (FROM 朱雀RS) 















   



     

      
   

   




    



  




  





     

     
 
                             



 




    



      


















   

























  


























 


   

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